物体の形状や寸法といった情報を、正確かつ客観的に他者に伝える表現方法として図面が挙げられます。
図面には平面図、断面図等さまざまな種類が存在します。
そしてこうした図面を作図するには、漫画家やデザイナーや写真家が利用するグラフィックソフトとは全く異なる専用のソフトウェアが必要となります。
そこで登場するのが、CADと呼ばれるソフトウェアです。
CADとは、設計・製図特化したグラフィックソフトです。
CADソフトが登場するまではペンと定規で描いていた図面ですが、ここ十数年のデジタル技術の向上により家庭用パソコンでも、学生でも扱えるCADソフトが増えてきました。
大学や専門学校によってCADに対するスタンスは大きく異なり、入学当初から、CADの扱いを教えてくれる所、3年生位から教えてくれる所、3年位から使用許可が出る所(勉強は自分で)、卒業まで手描き作図を推奨している所など様々です。
また一口にCADと言ってもその種類や機能は様々です。
そのため、各学校はもちろん、各設計アトリエやゼネコンによって使っているソフトがまちまちです。
▼参考記事
以上のように、建築を学ぶ学生にとって、いつから・どのCADを勉強するかは大きな悩みのタネです。
この記事は、こうしたソフトの特徴や機能を比較しつつ、あなたがCADを選ぶ手引きを様々な観点から試みるものです。
建築系ソフトの分類
はじめに、
- 2DCAD
- 3DCAD・モデリングソフト
- BIM
など、紛らわしい建築系ソフトの違いについて、かんたんに解説しましょう。
2DCAD
Computer-Aided Designの略称で、とは、その名の通りコンピューターによって行う製図ソフトの総称です。
工業・造船・土木・建築などの業界に於いて、図面を作成するためにもちいます。
3DCAD・モデリングソフト
ソフト内にデジタル上の模型・3DCGを作成するソフトの総称です。
一応このサイトでは
- 3DCAD:建築・工業など、厳密な寸法調整と出力が求められるソフト
- モデリングソフト:映画・ゲーム・アニメーションなど直感的で柔軟な変形に強いソフト
と呼び分けることとしますが、両者の差異はどんどん薄まっているのが実情です。
BIM
Building Information Modelingの略称で、前述の3DCADの機能に、構造・設備・積算・施工・維持管理的な情報や条件を与える事のできるソフトです。
これによって、耐震構造・温熱環境・風向などのシミュレーションや、機材・施工・維持管理上のコスト計算など、一つのモデルデータ上で様々な処理・計算行うことができるようになります。
1. 2DCADソフト
1-1.Jw_cad
価格:無料
機能:2次元CAD
シェア:施工・設備・土木を中心により現場に近い業界で愛用されている。「非建築家・非設計士だがCADも使いたい」という人たちの要望に答える存在。マウス操作の扱いに癖があり、使い方に慣れるまでは混乱するが、教本や解説動画が豊富で入手しやすく、とりあえず学び始めるならコレ。
ダウンロード先:Jw_cad
▼おすすめ書籍
櫻井 良明氏の一連のシリーズが、わかりやすさ・網羅性・入手難易度の点から見てもおすすめです。
技術辞典のように様々なスキルを羅列するタイプの書籍ではなく、一つのお手本図面を示し、その作り方をSTEP BY STEPで学ぶタイプの書籍です。
1-2.AutoCAD
価格(LT版):月7,560円/年50,976円(2次元CAD機能のみ)
価格(通常版):月25,920円/年205,200円(3次元CAD機能あり)
機能:2次元CAD/3次元CAD
シェア:大手設計事務所やゼネコンなど、組織系の業界で愛用されている。世界でもっとも幅広く利用されており、使いこなせるようになればゼネコンや設計事務所でのアルバイトとしても重宝される。
教本・解説動画も多いが、工業用も意識した汎用CADのため、建築設計に特化した書籍はやや少なめ。
学生用無料版の他、3次元CAD機能のない廉価なLT版もある。
公式サイト: AutoCAD
▼公式サイトはこちら
▼おすすめ書籍
工業用も意識したAutoCAD教本が多数を占める中、貴重な建築図面に特化した指南書です。一般的な木造一戸建ての図面を模写しながら、AutoCADの使い方を学びます。
2. モデリングソフト・3DCADソフト
2-1.SketchUp
価格(無料版 ) :無料
価格(Pro版):127,440円(追加機能多数)
機能:3次元CG
シェア:最も手軽な3次元モデリング作成ソフト。建築だけでなくインテリア・映像作品・漫画の背景にいたるまで使われている。同じく無料のJwcadと併用して使う学生が多い。
あくまで3次元CADではなく3DCGソフトなので、図面からモデルを立ち上げたり、モデルから図面を書き起こすなどはできない。有料版ではCADで描いた図面を取り込むことができるなど複数機能追加。
▼おすすめ書籍
Obra Clubがおくる、SketchUp指南書です。
技術辞典のように様々なスキルを羅列するタイプの書籍ではなく、一つのお手本図面を示し、その作り方をSTEP BY STEPで学ぶタイプの書籍です。
2-2.3ds MAX
価格(学生版):無料
価格(通常版):月32,400円/年254,880円
機能:3次元CG
シェア:AutoCADと併用して利用されることの多い3次元グラフィックソフト。やはり大手設計事務所で利用されている。
豊富なプラグインとサポートネットワークが特徴だが、AutoCAD同様必ずしも建築設計に特化した内容ではない点に注意。
公式サイト:3ds MAX
2-3.Rhinoceros 3D
価格(体験版):無料(90日間)価格(学生非バンドル版):36,000円(買切り)
価格(学生バンドル版):90,000円(買切り)
価格(通常版):144,000円(買切り)
機能:3次元CAD
シェア:最近勢力を伸ばしている、今最も熱い3次元CAD。学生用の無料版は存在しないが、15万円とCADソフトにしては比較的低価格。
多くのソフトがライセンス契約のなか、買切り版が主流なのもお財布に優しい。
バンドル版を選択すれば、レンダリングソフトFlamingoなど追加パッケージが付く。
元々が航空機などを設計するCADであっただけに、自由曲面の造形に優れ、滑らかで有機的・数学的なモデリングに真価を発揮する。プログラミング言語であるPythonやGrasshopperと連携し、パラメトリックに設計することも可能。
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公式サイト: Rhinoceros 3D
▼おすすめ書籍
監修者である日建設計の山梨知彦氏が設計した「ホキ美術館」を題材に、Rhinocerosの使い方を学ぶ書籍です。
モデルデータはコチラに。
こちらは、コンピューテーショナル・デザインの先駆者、豊田啓介によるRhinoceros及びGrasshopperの解説書です。
ステップバイステップでお手本となる作品を作っていくタイプの解説書ではなく、機能を網羅的・体系的にまとめるタイプの本なので、ある程度Rhinocerosに慣れた人向けです。
また、日建設計が社内用に開発したトレーニングサイトをRhino-GH.comが、社外向けにも無料で公開されているので、そこから学習を始めるのがいいでしょう。
ライノセラスでミースのファンズワース邸をつくる7Lessonと、グラスホッパーに関する5Lessonが動画公開されており、効率的にライノセラスを学ぶことができます。
2-4.その他モデリングソフト
その他、
- CINEMA 4D(c4d)
- Fusion360
- blender
- メタセコイア
などのモデリングソフトが有名ですが、やはりどちらかといえばアニメ・ゲーム・映像業界においてよく用いられているソフト群のため、ここでは割愛とします。
3. BIMソフト
3-1.Revit
価格(学生版):無料
価格(通常版):月47,520円/年381,240円
機能:BIM
シェア:AutoCADと同じくAutodesk社が販売するBIMソフト。
前述のAutoCADや3dsMAXとは全く異なる思想で開発されており、かならずしも相性がいいというわけではない。そのため、AutoCADとRevitを併用している企業はおそらく少数派。
後述のARCHICADが欧州で使われているのに対し、こちらはアメリカでシェアを獲得しているイメージでしょうか。
また、Autodesk社のBIMソフトRevitに対応しているVPLプラグインに、Dynamoがあります。
参考書籍も少なく、いまいち知名度に欠ける存在ではありますが、BIMをダイレクトに操作できるVPLということで、今後の発展が期待されています。
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公式サイト:Revit
学習方法
学習にあたっては、公式サイトが学習教材を公開しています。
マンション一棟を教材に、全389ページ(実質的には335ページ)によって、実施設計を学ぶことができます。
Dynamoはまだまだ発展途上中のため、まとまった学習書籍すらほとんど存在しません。
ただし、下記公式サイトにて丁寧な解説があるため、Revitプレイヤーの方はこちらからの学習をおすすめします。
3-2.ArchiCAD
価格(学生版 ):無料
価格(solo版):345,000円+追加料金
機能:BIM
シェア:日本国内でのシェアは大きくないが、直感的なUIでBIMの入門ソフトとして大きく貢献している。また、大規模なプロジェクトを手がける分野での導入も増えている。
個人で扱うsolo版に加え、複数人数での協同作業機能が豊富な通常版もある。
公式サイト:ArchiCAD
▼おすすめ書籍
ArchiCADの入門書です。
架空の5階建てRC造ビルを作り上げながら、ARCHICADの基本的な使い方を学べます。
学生レベルの企画設計だけでなく、基本設計・詳細設計もふくめた解説があるのがうれしいです。
技術辞典のように様々なスキルを羅列するタイプの書籍ではなく、一つのお手本図面を示し、その作り方をSTEP BY STEPで学ぶタイプの書籍です。
またオンライン上でのライノセラス学習サイトとして、日建設計が社内用に開発したトレーニングサイトARCHICAD-Learning.comがあります。
無料で利用できるので、ここから始めるのも一手です。
3-3.VectorWorks architect
価格(OASIS学生版):10,000円(加盟校学生のみのコース)
価格(通常学生版):20,000円
価格(スタンドアロン版):416,000円
機能:2次元CAD/3次元CAD
シェア:アトリエ設計事務所やインテリア業界など、デザイン性が重視される領域で愛用されているため、この手の求人募集では使えることが必須であることも多い。他のCADソフトとの連携が低く、データの受け渡しに一手間必要。
公式サイト:VectorWorks architect
分析
各ソフトの操作感
それぞれのソフトの作図感覚を図画工作で例えるなら
- Jw_cad・AutoCAD:色鉛筆やクレヨンのように線で表現・作図する
- VectorWorks :切り紙貼り紙のように面で表現・作図する
- ArchiCAD・Revit:積み木のように立体の組み合わせで表現・作成する
- SketchUp・3ds MAX:粘土のように立体の変形で表現・作成する
- Rhinoceros:プログラミングと数学による造形
のような感覚だと思います。
その他Metasequoia、Form Zなど様々なソフトがありますが、シェアや学習のしやすさ(書籍・解説ホームページの量)から言えば、建築学科生向けcadとしては上記ソフトウェアが有力候補と考えていいと思います。
シェアについて
各ソフトの具体的な使用組織としては下記記事を御覧ください。
▼作成した建築モデルデータからパースを作る方法
▼イラレ・フォトショ・各種CAD 建築学科生向けソフトの一覧はこちら
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