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「設計力」を鍛えるためのトレーニングメソッド

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少年漫画にはしばし「わかりやすい修行シーン」が登場します。

 

ドラゴンボール・HUNTER×HUNTER・NARUTOといった、往年の少年ジャンプ代表作には必ずといっていいほど「魅力的な修行・訓練・トレーニング」のシーンが登場していました。

 

また近年の例で言えば、2019年のアニメ化で一世を風靡した「鬼滅の刃」も

  • 刀で石を切る
  • 瓢箪を吹き破る

といった修行シーンが豊富な作品でした。

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アニメ『鬼滅の刃』3話より



 

 

「適切な目標を設定しそれを達成すること」は、それ自体が人間にとって大きな娯楽です。

適切な訓練方法を知ることは、単に効率や生産性がいいというだけでなく、「楽しく能力を高める」というメンタル面でも大きな意味を持っています。

 

逆に、信頼のおける訓練方法を知らないままで修練を積むことは、「このまま同じことを続けていて本当に成長できるのだろうか?」という不安を抱えながらの訓練となるため、成長スピードが遅いばかりか、挫折や精神的疲労の可能性を高めることにつながります。

 

 

 

ところが建築学科においては、こうした「トレーニング」に関する議論が十分とは言い難い状況だと思います。

 

現に学生が抱える

  • コンセプトとか言われても何も思い浮かばない!
  • 思いついたコンセプトを、リアリティのある形に落とし込めない!
  • 「良い設計」「甘い設計」の区別がつかない!

という悩みに対し、「具体的になにをどうすればいいのか」という処方箋が、学生はおろか教職員の間でもあまり共有されていないのではないでしょうか?

 

 

野球なら素振り、美術ならデッサン、将棋なら詰将棋。

あらゆる技能・技術には、習得のための「基礎トレーニング」がある程度定まっているものです。

 

本記事では、こうした

  • 具体的な進捗を把握しやすく、
  • 努力が実感しやすく、
  • 初心者から熟練者まで共通して意味のある訓練

の実例をあげ、健全な設計教育の実現を応援したいと考えます。

 

 

はじめに

 

例えば建築学生の「一戸建ての住宅を設計する能力」について考えてみると、

  • 1年生:何から手をつければいいかわからない
  • 2年生:一ヶ月くらいかければなんとか設計できる
  • 3年生:一日でもそれなりの設計ができる
  • 4年生:より魅力的・独創的な設計ができる

という具合に、そこにはいくつかの「出来る」のグラデーションがあることがわかります。

 

これは設計に限らない話ではあるのですが、僕たちの能力は単純に「出来る/出来ない」と二分できるものではなく、

  • LEVEL0:全く出来ない
  • LEVEL1:時間と労力をかければ出来る
  • LEVEL2:簡単に出来る
  • LEVEL3:より高次元に出来る

のように、多段階に別れています。

そして重要なのは、この「LEVEL0からLEVEL1へ」レベルアップするための訓練と、「LEVEL1からLEVEL2へ」にステップアップする訓練、そして「LEVEL2からLEVEL3へ」成長するための訓練は、必ずしも一致するとは限らないという点です。

 

 

これは、文字や文章の練習(=国語力)を考えればわかりやすいかと思います。

  • 小学生のころの「お手本どおりに字を書き写していた」時期
  • その漢字を「スムーズに思い出しながら文章を読み書きする」大人の段階
  • 「より独創的に文章や文字を扱う」という書道・文学の世界

これらはいずれも「言葉を学ぶ」という点では同じですが、その目的も難易度も訓練方法も全く異なるものだと言えます。

 

 

同じく設計においても、

  • 設計の右も左もわからない学生
  • 設計できるけど、まだ生産性が低い学生
  • より発展的な設計に挑戦したい学生

では、取り組むべき課題も大きく異なってくるのです。

 

レベル別、設計力を高める3つの訓練

というわけで、それぞれのレベルにある学生のための訓練方法を考えていきましょう。

具体的には

  • 図面模写・図面トレス
  • 即日設計
  • スケッチ

の3つを取り上げたいと思います。

1.図面模写 図面トレス

対象者(レベル0からレベル1へ)

  • 建築学科に入学したばかりで、何からすればいいかわからない人
  • 教員から『図面の描き方が甘い』と指摘された人
  • とにかく建築学生としての最低限の素養を身につけたい人

 

 

その名の通り、名作建築などの図面をお手本に、漢字や書道の書き取り練習その図面を書き写すトレーニングです。

 

非常にシンプルなトレーニングですが、それ故に全くの初心者でも取り組める点が強みと言えるでしょう。

実際、入学後初めての設計実習が図面の模写・トレスだったという大学も多いのではないでしょうか?

あるいは大手の組織設計事務所などでも、新入社員の訓練として事務所が所有する図面の模写を課すところもあるようです。

 

 

 

なぜ、ただ図面を描き写すだけの行為が、設計力のトレーニングになるのでしょうか?

それは、「見て、覚えて、それを別の紙に書き写す」という行為のなかに、「図面をよく観察する」という行為が内包されているからです。

 

図面をたくさん描き写すことは、すなわち図面をたくさん観察することを意味し、それは「図面に対する良し悪しを直感的に判断出来る感覚」を育て上げるためには非常に重要な過程です。

設計の平面計画とは、非言語的・直感的で正解のないスキルだ。

取りうる平面計画の可能性は無限であり、それを選択する絶対的なマニュアルや具体的な手順はない。

 

つまり、まず理解するべきなのは、このような非言語的・直感的なスキルの習得は、人から教わるものではないのだ。

それは、もっと身体的・反復的なトレーニングによって身につけるものであると考えるべきなのだ。

 

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つまり図面模写とは、「正しい図面」の描き方やあり方を大量に脳にインプットすることであり、これによって頭の中に浮かんだ建築のアイデアをリアリティある設計としてまとめ上げるための回路を鍛えることができるのです。

 

 

 

トレーニング方法

まずは何らかの方法でお手本となる図面を入手しましょう。

もしあなたが住宅の設計に悩むなら住宅の図面を、公共建築の設計に悩むなら公共建築の図面を、実施図面の作図に悩むのであれば実施図面を、それぞれ確保するところから始めてください。

 

例えば下記の記事では、有名建築家の住宅設計図面が多数収録された書籍をいくつか取り上げています。 

 ここに掲載されている図面をロットリングペンによってケント紙に複写するというのは、おそらく最もスタンダードな建築の勉強法になると思います。

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 あとは、そうして入手した図面をひたすら真似しながら「インプット」していきましょう。

  • 「どんな道具で書き写せばいいの?」
  • 「何枚くらい書けばいいの?」
  • 「同じ図面を繰り返したほうがいいの?」

という質問もたまに寄せられるのですが、基本的には自由にやるのが一番いいかと思います。

 

というのも、この訓練は質より量というか、とにかく反復練習的に数をこなすことが最も重要なトレーニングであり、そのためにはあなた自身の

「このやり方ならストレス無く続けられる」

「成長していることが実感できる」

という主観がなにより重要だからです。 

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で、この図面模写をしばらく繰り返していくと、次第に「自分もオリジナルの建築を設計してみたい!」という気分が湧いてくると思います。

そのときは、次に紹介する「即日設計」にチャレンジしてみましょう。

 

 

2.即日設計

対象者(レベル1からレベル2へ)

  • 設計のアイデアは出るけれど、それを形に落とし込めない人
  • 設計課題で毎回時間がかかり、いつも徹夜してしまう人
  • 毎回課題がびっくり建築の一発芸大会になってしまう人

即日設計はその名の通り、限られた時間(大抵は4-5時間)内に条件に合致する建築を設計する行為のことです。

 

例えば、一級・二級建築士の実技試験は、4-5時間という限られた時間で住宅・商業施設・公共施設を設計し、A3方眼紙内にそれを表す図面を書き上げるという試験が出題されます。

その他、建築学科の大学院入学や、大手設計事務所への入社試験などにおいて課されることが多いのでは無いでしょうか。

こうした事情から、3年生や大学院1年生のころになってから、初めて即日設計に取り組む学生が多いかと思います。

 

 

しかし即日設計とは、いわば「設計作業の最適化訓練」であり、かならずしも入学や入社の時にしか役に立たないスキルというわけではありません。

なぜなら建築家は芸術家であると同時にエンジニアであり、

「一定の品質の製品をコンスタントに出力し続けられる」

という、側面の能力がどうしても要求されるものだからです。

 

そうしたスキルを鍛えるためには、「最低限の水準を満たす建築を短期的に大量に作る」という訓練が、必ず必要になってくるのです。

 

 トレーニング方法

即日設計は、「時間をかければ出来る」程度のスキルを鍛え、「短時間でも効率的に出来る」という水準まで引き上げるための訓練です。

例えば一年生のうちはまる一ヶ月かけて設計していた住宅課題を、わずか一日で設計・製図まで出来るようになることが目標です。

 

言い換えれば、「少なくとも時間をかければ何かしらの設計ができる」程どの設計力を持っていることが前提となっています。

「まだ一年生なので設計課題が始まっていない」という大学生や、「大学のカリキュラムに設計演習がない」という専門学校生の方は、先に下記の記事などを通じて、少なくとも1作品をじっくり作るところから始めてください。

 

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すでにいくつか設計演習を行ったことがあり、「もっとその設計過程を最適化したい」という方は、ぜひ即日設計にチャレンジしてみましょう。

具体的には、まず建築士試験の問題集や各大学の大学院試験演習課題などを参考に、まずは即日設計の題材となる問題を集めます。

設計の題材が見つからない・思いつかないという人は、下記記事にて紹介した書籍なども参考にしてみてください。

 

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こうした設計演習は、最初のうちは一ヶ月近くかけてボロボロのものが出来るのが普通です。

しかしそれは、あなたに設計の才能が無いからではなく、設計の手順やコツみたいなものをまだつかめていないだけの問題です。

 

 

繰り返し設計することで、設計の手順やエスキスの方法論が徐々にあなたの中に蓄積していくため、設計にかかる時間は次第に短くなっていくでしょう。

(どうしても短時間で設計できない人は、前述の「図面模写」によるインプットが足りていない可能性が高いです。)

 

 

3.スケッチ

 

対象者(レベル2からレベル3へ)

  • プレゼンボードがいつも文字だらけになってしまう人
  • 空間的・ダイアグラム的に思考出来ない人
  • もっとのびのびと自由に建築を発想したい人

更に設計力を挙げていくと、オリジナリティや独創性、発想を展開させるCreativeな力が要求されるようになっていきます。

図面模写や即日設計は、機能面・計画面での能力を上げることには役立ちますが、意匠面や造形面においてはさほど有効なトレーニングとは言えません。

 

この段階になると、「言葉ではなく形や映像で思考する能力」の重要性が高まってきます。

日本の建築学科はは理工系に属しており、国語算数理科社会英語の受験を突破した学生に依って構成されています。

そのため論理的思考は特異な反面、頭でっかちなコンセプトをぶち上げてるのに、それを造形的に落とし込めないという学生が非常に多いようです。

 

 

 

脳みそを言語的思考から解きほぐし、空間的・映像的に物事を考えるクセをつけるためには、定期的なスケッチ演習が欠かせないものとなってきます。 

 

 

トレーニング方法

【建築スケッチの学び方 編集中】

 

 

戦略的にトレーニングメニューを組む方法

対象者

  • 『自信作』が一つもない人
  • いつも設計がいきあたりばったりで、設計に対する「軸」を持ててない人
  • 自分の設計に対して振り返る機会をこれまで持ってこなかった人

 

 

さて、ここまでは

  • 「自分はどんな能力が欠けているのか」
  • 「自分の能力は具体的にどのレベルなのか」
  • 「次にどのような訓練を行うべきなのか」

という点を、あなた自身が客観視出来ることを前提として話を進めてきました。

しかし実際のところ、「自分はいまなにをすべきなのか」を自覚するというのは大変むずかしい行為です。

(現にそれがわからないからこそ、あなたはこの記事をクリックしたはずです)

 

特に建築学科には、設計課題の締切が終わるとすでに次の設計課題のことで頭が一杯になってしまい、終わった作品の手入れを行わない学生がたくさんいます。

 

こうしたことを続けていると、

  • 一つの作品をきっちり最後まで仕上げきる能力が育たなかったり、
  • 過去の作品での反省を生かして次作を向上させたり、
  • 自分の作品の中から一貫した傾向を発見して自分の強みを見出したり、

といった、クリエイターとしての自己分析がおろそかなまま、四年間を過ごしてしまうことになります。

 

 

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そこで最後に、上記のトレーニングメニューをより効率的に取り組むための戦略を考えましょう。

結論から言えば、自分に欠けているもの、自分が目指すべき方向性を自覚する手段としては「ポートフォリオを作る」というのが最も手っ取り早いといえるでしょう。

 

ポートフォリオとは、本来は「紙入れ、札入れ」を意味するイタリア語のportafoglioに由来を持つ単語だ。

現代ではそこからさらに意味が派生し、

  • 金融業界では「現金、預金、株式、債券、不動産などの保有資産の一覧」を、
  • 教育業界では「評価・経験・体験・実績などの成績評価の一覧」を、
  • クリエイター業界では「作品・実績・受賞・技術などの保有スキルの一覧」を、

それぞれ指し示す単語として用いられる。

 

すなわちポートフォリオという言葉の本質は「財産目録」にある。

そこには、小さな手持ちの財産を「運用する」というニュアンスが含まれているのである。

 

適切なポートフォリオを作ることで財産が増え、財産が増えることによってポートフォリオが充実する、そうやって雪だるま式に小さな資産を大きな資産に「運用」していく発想が、その根底には存在している。

 

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この「あなたの作品集を作る」という行為が、自分自身の現状を見つめ直す最大のトレーニングなのです。

 

 

 

トレーニング方法

設計課題ではA1サイズなど極めて大きな用紙に出力して提出することが多いです。

しかし、定期的に自分の作品を振り返る習慣を身につけるためには、もう少しコンパクトで取り回しの効く形で作品をまとめておきたいところでしょう。

 

そのため、課題が終わるたびに自分の作品を振り返りやすいフォーマットでまとめ直すよう心がけましょう。

(課題終了ごとにまとめる時間がなければ、春休みや夏休み等の長期休暇のたびにでもいいと思います)

 

繰り返し自分の作品を振り返る習慣がつくと、

「この図面を作り直したい」

「ここの屋根形状の納まりが気になる」

「今ならもっといいパースが作れる」

などの反省点が見えてきます。

 

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まとめ

以上、

  • 図面模写
  • 即日設計
  • スケッチ

という3つの訓練方法と、それらの修行を連携させる「ポートフォリオ作成」の効能について、紹介してきました。

 

ここに、下記の記事で紹介するような「表現力・デジタルスキル」を身につけることができれば、設計課題に関する悩みの7割には対応できると思います。

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