建築学科ごっこ

建築学科って,何から学び始めればいいの?

「作りたい建築が無い」という建築学生に送る、建築設計のトレーニング帳

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一般に建築学科の設計課題というのは、教員から以下のような設計条件を提示されるところからスタートします。

  • 建築の種類・目的(住宅・カフェ・美術館など)
  • 敷地条件(市街地・郊外・森の中、など。具体的な住所が指定されることも)
  • 設計規模(敷地面積・建物の高さ・必要な部屋数など)
  • ターゲット像(ティーンエイジャー・30代のビジネスマン・高齢者など)

 

皆さんは、こうした条件に答える形で作品を作りながら、図面の書き方、スケッチの描き方、模型の作り方といった基礎的な素養を身に着けていきます。

 

 ▼参考 グーグル画像検索「設計課題」

www.google.com

  

 

しかし、こういう設計条件は、なにも所属する大学の教員が示したものに従うばかりではありません。

 

 

 

例えば学生生活の最後の課題である「卒業設計」においては、

「敷地もテーマも用途も規模も一切自由です。あなたの思う建築を、丸一年をかけて一つの作品として提出してください」

という具合に、設計条件のすべてが完全に学生に一任されるわけです。

なので皆さんはそれまでに、自分自身で問いを立ててそれを実行するだけの「目標達成力」を身に着けなければなりません。

 

 

 

 

また、就職活動などの時期にポートフォリオを作る段になって

「まともに載せられる作品がない……」

「行きたい就職先と、作ってきた作品の方向性がずれている……」

と嘆く学生も、毎年あとを絶ちません。

これは、ただ与えられる課題に受け身で取り組んできた証左と言わざるを得ないでしょう。

 

 

 

このように建築学科には、

  • 他の大学の設計課題に取り組んでみたり、
  • 学生自身が自分で課題を設定したり、
  • 建築サークルなどで独自の設計演習をやってみたり、

といった形の、自発的な設計・創作活動がもう少しあってもいいのかもしれません。

 

 

 

そこでこの記事では、「設計の練習はしたいけど、具体的な課題をうまく自分で設定できない」という方におすすめな、設計課題の問題集ともいうべき書籍をまとめてみました。

こうした書籍の指示や提示された課題に取り組むことで、独力で設計をやり遂げる力を身に着けてほしいと思います。

 

 

『空間練習帳』(小嶋 一浩ら)

出版社:彰国社 

価格:2096円

 

内容紹介

空間から建築へ。知る人ぞ知る「空間デザイン演習」が本になりました!10個の課題であなたも空間のおもしろさに引き込まれます。

Amazonより)

学校建築でおなじみの小嶋 一浩氏が、東京理科大学理工学部一年生に対して行った「空間デザイン及び演習Ⅰ・Ⅱ」の内容を、書籍として編集した一冊です。

「建築演習」ではなく「空間演習」というタイトルからも分かる通り、製図の方法や模型の作り方といった技術的な指導というよりも、ワークショップ的・オリエンテーション的な体験型の課題が多い点が特徴です。

 

本書に紹介されている課題は、以下の10です。

  1. 光の箱
    ダンボールを1/20の部屋とみなし、そこに様々な窓や壁を設けることで、光の演出やコントロールを学ぶ。
  2. スライドスケッチ
    スライドに映された、光の陰影が特徴的な内観写真を3分間記憶し、その後記憶を頼りに2分間でスケッチする。 
  3. フォトコンテスト
    指定された建築に足を運び、さまざまな構図で写真に収め、その空間の優れた点を写真一枚で伝える。
  4. 空間レポート
    10箇所程度建築をめぐり調査・分析して、自分が感じた「魅力的な空間」を伝えるA0サイズのプレゼンボードを作成する。
  5. 建築ブックレット
    上記と同内容のことを、今度は冊子状にまとめる。
  6. ピクニック
    グループを作り、場所・料理・道具・演出を設定し、大学の教員を巻き込んだピクニックを企画・実行する。
  7. 立方体×立方体
    スチレンボードで、僅かな隙間も無くピッタリと収納される2つの立方体を作る。
  8. ザ・ウォッチャー
    「間」「アクティビティ」「マテリアル」など特定のテーマを設定し、それに当てはまる写真を街中から撮影する。
  9. 篠原一男の空間 
    図面や写真があまり残されていない住宅作家「篠原一男」の住宅を一つ取り上げ、その1/20サイズのリアルな内装模型を再現する。
  10. あなたの部屋を空間化せよ!
    自室を「敷地」と設定し、その部屋を「ただの部屋」から「空間」へと改造して、3ヶ月程度生活する。

 この本に載っている課題というのは、どれもこれもいい意味で「面倒臭い」課題ばかりです。

 

 

例えば「フォトコンテスト」「空間レポート」「ピクニック」「ザ・ウォッチャー」などは、どれもこれも、何度も屋外に足を運び、ときに一つの空間に3時間近く滞在して観察することが要求されるような、時間も手間もかかる課題です。

 

 

「光の箱」や「篠原一男の空間」では模型を作りますが、いずれも1/20サイズという一般に建築学科で使われるよりはるか大きいスケールが要求されています。

おまけにどちらの課題も、通常の設計課題の模型では無視されがちな「光源・反射・照明・材質」といった要素まで、しっかり気を配らなければなりません。

 

 

最後に取り上げられた「あなたの部屋を空間化せよ!」では、エスキスや図面作成や模型作成に加え、実際に自分の部屋を施工しなければなりません。

その内容も、

  • 部屋中を柔らかい布のカーテンで埋め尽くす
  • 壁の一部を剥がし、そこを棚にする
  • 部屋の壁・窓・床・天井をすべて少年ジャンプの紙面で埋める

など、どうかしてる魅力的なものばかりです。

 

 

 

しかし、どの課題も非常に面倒くさそうでありながら、それでいてとても楽しそうな印象を受けるのは、それはここに載っているすべての課題が「学んだことを机上で終わらせていない」からでしょう。

 

これから建築を学び始める一年生、あるいは最近設計課題がマンネリ化してきたと感じるすべての建築学生に、ぜひ読んでほしい(そして実際に手を動かしてみてほしい)一冊だと思います。

 

 

 

一級/二級建築士試験 製図問題

上記の『空間練習帳』は、「五感を使って、想像力や空間への感性を磨く」訓練だとすれば、「磨いたセンスやイメージを、客観的な図表に落とし込む能力」を磨く訓練もまた重要です。

 

その題材としておすすめしたいのが、「一級建築士試験」や「二級建築士試験」の過去問や例題、予想問題集に取り組むことです。

 

 

 

 

こうした建築士試験の製図試験には、大きなメリットが3つあります。

 

第一に、建築士試験の図面が良くも悪くもその内容が「模範的・優等生的」だからです。

 建築学科で課題に取り組んでいると、どうしても「機能面・設備面・耐久面に難もあるが、突出した点が光る、エポックメイキングな作品」に走りがちになります。

そういう建築を好むことは悪いことではありませんが、「堅実かつ正統派な設計」をまとめ上げる能力もまた建築設計には重要です。 

そうした設計の基礎力をまとめ上げる上で、建築士試験の設計課題は欠かせない教材だと考えています。

 

 

第二に、大量の図面や課題を比較的用意に入手できる点です。

 

例えば、建築技術教育普及センターのホームページでは、過去三年分の過去問とその解答例が無料で公開されています。

一級建築士試験 試験問題等 建築技術教育普及センターホームページ

二級建築士試験 試験問題等 建築技術教育普及センターホームページ

 

この内、 「設計製図の試験」と書かれている項目の表をクリックしてみましょう。

すると、出題された製図試験問題の

  • 問題用紙
  • 解答用紙
  • 採点項目
  • 模範解答

を、無料でダウンロードできるはずです。

  

また、各資格試験予備校などは、例年建築士試験の過去問や予想問題集を出版・公開しており、これを利用するのもおすすめです。

▼無料サイト

製図練習課題/1級建築士製図対策室

二級建築士「設計製図の試験」練習課題

 

▼関連書籍

1級建築士 過去問題集チャレンジ7 平成29年度版

  

2級建築士 過去問題集チャレンジ7 平成29年度版

 

 

 

建築士試験のさらなる魅力として、課題も模範解答も評価のポイントもきちんと整備されており、かつ難易度や傾向がある程度統一されている点も大きいでしょう。

 

高校までの学習ではあまり自覚できない点ですが、これから何かを学ぶにあたって「答案付きの問題集」が存在するというのは、大学以降の学習では非常に貴重な環境なのです。

 

 

以上3つの点から、ぜひ建築学科に在籍している学生にも、建築士試験の問題を解いてみてほしいのです。

 

 

「でも建築士試験って、すごい難しいって聞いたけど?」

 「初心者が手を出しても、手も足も出ないんじゃないの?」

 

確かに建築士試験、特に一級建築士試験は、本邦の資格試験のなかでも最高レベルの難易度と称される難関です。

しかし、こうした資格試験における製図試験の難しさというのは、

  • わずか数時間で設計から製図までを終えなければならない点
  • 設計として破綻がなく、高い完成度を確保しなければならない点

にあるものです。

 

そのため、厳しすぎる制限時間を撤廃し、じっくり建築の教科書と突き合わせながら解いていくという条件で取り組めば、建築を学び始めた学生にとっても十分取り組むに値する難易度だと考えます。

無論、その設計は合格答案とは程遠いものでしょうが、「下手に奇をてらわず、建築として破綻のない設計をしっかり学びたい」という学生の方にとっては、非常に魅力的な教材であると考えています。

 

ぜひ、勇気を出して挑戦してみてください。

 

 

 

ちなみに、二級建築士試験では住宅やカフェ店舗程度の設計問題が出題されるのに対し、一級建築士試験は美術館や図書館・スポーツジムといった規模の大きな施設が出題されるという大きな違いがあります。

 

 

 

 

 

 

『JUTAKUKADAI』シリーズ(東京建築士会/総合資格学院)

概要

出版: 東京建築士会(1~3巻) /総合資格( 4~7巻)

価格:3080円(1・2巻) /1980円( 3・4巻) /2420円( 5~7巻)

 

内容紹介(7巻)
首都圏に位置する大学の建築系学科で課される住宅を対象とした課題において、各大学から代表作を募って競い合うコンクールの作品集です。
首都圏39 大学51 学科からの代表作と各大学の課題を掲載!

□4 色カラーで、51 作品を1 作品4 ページで紹介
□学生&教員必見! 各大学で出題された課題文も掲載
□住宅課題を出題した教員によるトークイベントも収録
□4 人の課題出題教員のインタビューを掲載

Amazonより)

製図試験問題の過去問や模範解答集というのは「堅実で破綻のない理路的な設計」を身につけることができる格好の教材でしたが、同時に「学生による自由で等身大な設計」を見ることもまた、設計においては大きな励みや目標になります。

 

そこで次におすすめしたいのが、この「JUTAKUKADAI」です。

これは、首都圏の大学で行われた「住宅・集合住宅」の設計課題の中から、より優秀な作品を決定するコンクール「住宅課題賞」を書籍化したものです。

つまり本書は、皆さんの先輩が一年生や二年生だったころに取り組んだ課題とその模範解答が、50近い数収録されている一冊なのです。

 

本書に掲載された設計作品には、それぞれ

  • 課題テーマ
  • 課題条件
  • 敷地

といった出題条件と、

  • タイトル
  • 模型写真
  • 図面
  • スケッチ(パース図)
  • 解説イラスト(ダイアグラム)

といった作品の詳細、そして建築家や教員からの講評文が添えられています。

 

 

 

そのため、このシリーズの内一冊でも読めば、

  • 関東の主要大学でどのような設計課題が出ているのか
  • それに対し、優秀な学生はどのような作品を出したのか
  • その作品に対し、教員はどのように評価したのか

という点を、非常にリアルに実感できるかと思います。

 

また、単に本書の作品を眺めて「実感」するだけでは無く、

「もし自分がこんな課題を出されたら、どんな設計を提出するだろうか?」

という具合に思考することで、自然と設計課題的な思考を磨くトレーニングになる点も、おすすめする理由の一つです。

 

 

 

なによりこの本の良いところは、取り上げられている作品がいい意味で「等身大」な点です。

一般の建築学科では、住宅設計は1年生の終わりから2年生のはじめにかけて、集合住宅は2年生のはじめから3年生のはじめにかけて行われるものです。

つまりこの本に載っている作品というのは、みなさんと同じ新入生か、せいぜい3年生前半までに取り組んだ作品の中での優秀作品なのです。

 

はじめて設計を独学で学ぶ上で、この書籍が一冊あることは、非常に大きな学習の支えになるのではないでしょうか?

2020年4月現在、シリーズは全部で7冊出ており、それぞれの厚みや値段は異なっています。

実際に書店で手にとって購入するのがおすすめですが、特にこだわりが無いようでしたら最新刊を購入するのが良いかと思います。

 

▶ 「JUTAKUKADAI」シリーズ一覧

 

 

『建築新人戦オフィシャルブック』シリーズ(建築新人戦実行委員会)

 そんな『JUTAKU KADAI』のレベルアップ版が、この『建築新人戦 オフィシャルブック』です。

 

概要

出版:建築新人戦実行委員会 (著), 総合資格学院 (編集)

価格:1980円

 

内容紹介


実行委員総入れ替えで新たなスタートを切った新人戦!
オフィシャルブックでも新企画を多数収録!!
◇建築新人戦とは・・・
大学1~3回生のほか、短期大学生、専門学校生、高等専門学校生などの建築系学生が、学校で取り組んだ課題作品を競い合う設計展。
1回生も2回生も参加できる、まさに建築学生の新人戦。

Amazonより)

 

前述の『JUTAKU KADAI』は、地域的には関東、内容的には住宅・別荘・集合住宅建築に限定した大会でした。

対してこの「建築新人戦」は、全国の建築学科が取り組んだあらゆす設計課題を対象に行われるコンクールであり、その多様性やレベルは前述のそれを更に上回る内容となっています。

 

内容的には、前項の住宅課題よりも収録作品数は少なめです。

しかし、取り上げた作品は全国から応募された百以上の作品を勝ち上がった作品ばかり。

もちろんその多くの作品に対し、課題テーマ・敷地・規模といった課題条件や、図面・模型・スケッチ・イラストが添付されていて、非常に見応えのある一冊となっています。

 

本書の内容は一年生が参考にするにはややレベルの高い内容と言えるかもしれませんが、「国内最高峰レベルの3年生~4年生の実力」を知っておくことは、スキルアップの意味でもモチベーションの意味でも、非常に有益であるのではないでしょうか?

 

シリーズは2020年現在で11巻まで出ています。

JUTAKU KADAIと違い、各巻ごとに値段や厚みの差が殆どないため、お好みの巻を購入すればいいかと思います。

 

▶建築新人戦 オフィシャルブック一覧

 

 

合言葉は「自分ならこう作る!」

以上の書籍の中から、任意の設計演習を一つを選び、

「私なら、この敷地にこういう建物を建てる!」

「この課題に取り組むとして、自分ならこういうアイデアを使う」

という妄想を膨らませてみてください。

 

そしてそれを、頭の中だけに留めるのではなく、スケッチブックや方眼紙に書き留めて、実際に課題として手を動かして取り組んでみましょう。

 

最初はパクリやアレンジレベルでも大丈夫です。

そうやって少しずつ建築の知識や創作の経験を積み重ねていくことで、いつしかあなたの中にも「作りたい建築」のイメージが芽生えていくのです。

 

 関連記事

www.gakka-gokko.com