建築学科ごっこ

せめて、建築学科生のふりはしていたいから

建築設計事務所のオープンデスク搾取の原因はどこにあるのか?

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缶ジュースから石油の値段まで、あらゆるものの価値は需要と供給によって決定する。

同様に、僕たちの労働力の価値(=給与)もまた、その需給バランスによって決定する。

インターンやオープンデスクで僕たちの給料が低いのは、設計業務を志望する学生の数に対し、建築学科新卒程度にもできる簡単な業務の数が少ないからだ。



これは建築業界に限った話ではない。

オープンデスクやインターンで僕らが搾取される原因は、雇用者が意地悪だからでも建築業界の生産性が低いからでもない。

現代という時代が、全世界的に「若者が労働する権利を買う時代」なのだ。

特に建築設計業務のように、参入希望者の多い業界ではそれが浮き彫りになりやすいというだけのことである。

需要と供給

 

 

この世には2種類の学生がいる。

  • 特殊なスキルを持たず、単純作業くらいしかできない人材。
  • 特殊なスキルを持ち、高い付加価値を生み出すことのできる人材。

 

戦後好景気の中では、前者の学生が求められていた。

戦後の住宅供給不足のなか、1人でも多くの家庭に一瞬でも早く住まいを提供する時代は、どんな形であれ住宅を設計しさえすれば売れたのだ。

これは公共施設も土木インフラも商業施設も基本的には同じだったし、車や冷蔵庫の製造にも当てはまった。

急激な需要の増加と戦後復興の空気の中で、どんな形であれマンパワーが求められていた時代である。 

 

学生の数は多かったが、それ以上に学生労働力を求める声も多かった

たとえそれが高等教育を受けていない若者であっても、需要があったから「金の卵」とさえ呼ばれたのだ。

故に、当時の新卒の給料水準は高かった。

 

 

 

 

ところが僕たちの時代はそうじゃない。

大学の設計教育は大して変化してないけど、世界はますます豊かになり、ますます複雑になってしまった。

 

いまや、誰もが家を持つどころか、3軒に1軒は空き家と呼ばれる時代だ。

家を作れば売れる時代などとっくに過ぎ去り、すでに家を持っている人に新しい一軒家を買わせるだけの斬新で魅力的な付加価値をつけなければならない、付加価値地獄とも言うべき時代である。

 

 

 

 

無論昔の家だって、多様な個性と豊かな空間を持つものはたくさんある。

かつての住宅すべてが均質で平凡で画一化されたものだったとは思わない。

 でも繰り返すように、これは需要と供給、すなわち社会全体レベルでみた「割合」の問題だ。

 

 

 

人口が右肩上がりで住宅が足りない時代と、

人口が 増える見込みがなく住宅が余っている時代。

 

どちらがより住宅を売るのが難しい時代かは説明するまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

しかも、なんとか創意工夫を凝らして、魅力的で斬新な家を作ったとしても、この付加価値地獄からは抜けられない。

 

情報化が進んだこの社会では、斬新な手法など一瞬で拡散し、模倣され、陳腐化してしまうからだ。

住宅設計は家電メーカーやグラフィックデザイン業界に比べれば、この手の陳腐化するスピードはずっとましだけど、それでも次々とその土地や家庭に合わせた新しく複雑で斬新な建築を生み出さないと食べていけないという点では同じことだ。

 

作る家作る建物全てに、何らかの形で独創性と新規性が求められている。

 「単純ニーズ」が飽和してしまったがために、本来高度で知的な作業であった分野ですら相対的に「単純作業」化してしまった。

 

 

 

 

 

 

しかも、わずかに残ったその「高度な単純作業」でさえ、コンピューター技術・情報通信技術の発達により消滅しつつある。

これまで若手の設計志望者に任されてきた模型作成や資料収集、情報共有のための準備や段取りといった情報処理技術や伝達処理事務の大半が、この数十年で異次元と言っていいほど効率化されてしまった。

 

 

それはインターネットの発達であったり、CADソフトの進歩であったり、マネジメントツールの一般化であったりと実に多方面において行われてきた。

 

  • これまで10人でやっていた労働を2人でまにあわせる
  • これまで1ヶ月かけていた打ち合わせが3日で片付く
  • これまで100万円かかっていた製作コストが10万円にまで削減される

 

といった革命的と言っていい進化が、建築業界含めた諸先進国のホワイトカラーにおける労働環境に起こったのだ。

もはや新入社員を雇うデメリットが、メリットを上回る環境に差し掛かりつつあると言っていい。

 

 

 

これで若者の給料水準が維持できるとしたら奇跡というほかないだろう。

新卒の学生に求められる素質が大きく転換している原因はココにもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

この世には2種類の学生がいる。

 

  • 特殊なスキルを持たず、単純作業くらいしかできない人材。
  • 特殊なスキルを持ち、高い付加価値を生み出すことのできる人材。

 

ほとんどの学生の能力は、数十年前に比べて格段に上がっていると思う。

だけど、それを上回る速度で「学生でもこのくらい出来て当たり前」という要求レベルが上がっている。

(一級建築士試験の難易度や、できるようにならなければならないCAD・BIMソフトスキルの質、コンペで考慮しなければならない社会的経済的文化的要因の多さを考えれば明らかである。)

 

 

結果、ほとんどの学生が相対的に「特殊なスキルを持たない、無給ででも教育しないと使えない」学生になっているのだ。

 

こうして、(高度な能力を持つ)人材は不足しているが賃金が上がらない世界が形成された。

 

 

 

 

 

 

 

 

インターン搾取の悪者はだれか?

 

人間は、自分がなんらかの苦境に陥った時「誰かの悪意や無能力が原因である」と直感的に関連付けて考えてしまう。

オープンデスクで搾取された学生が、その責任を建築家に求めるように。






だが前述の通り、労働問題は基本的に需要と供給のバランス、そしてそれを支える社会構造によって決定するものである。



 

 

 

 

 

 

 

冷静に社会を見回してほしい。

 

 

 

終身雇用制が崩壊しつつある。

ということは、僕たち新卒はベテランキャリアアップ転職勢と同じ労働市場での就職活動を強いられているということにほかならない。

 

 

 

日本の人口は、なお減少しつつある。

人口が増加し家を作れば飛ぶように売れた時代の設計教育・採用方法が、人口が減少し空き家が飽和する現代日本においても適しているはずがない。

 

 

 

AIやロボット技術、3DプリンターやVR技術は今後も進歩・発展するだろう。

あらゆるものが自動化・省力化していく世の中で、これ以上人を積極的に雇う事務所が果たしてどれだけあるだろうか?



 

 

残念ながら

「昨今のインターンやオープンデスクの労働環境は問題だ!建築業界はなんとかしろ!」

と騒ぐのは、ラッダイト運動で産業革命を止めようとする労働人夫に等しい愚行だ。

 

あなたに同情こそするが、そこに建設的な議論は生まれない。

(そしてあなたの有している選択肢の数は、当時の工場労働者よりは遥かに多い。)



 

この記事の主張は

「オープンデスクは学ぶものが多いので無賃でも構わない。」

という設計事務所擁護ではない。

 

「僕たちは新しい時代の労働のあり方を模索しなければならない」

という同胞への呼びかけである。

 

 

 

 

 

 

設計事務所の採用活動 その未来予測と就活戦略

もし今後、オープンデスクやインターンに対する不満の声が重なった場合、はたして設計事務所は学生の賃金を上げてくれるだろうか?

 

残念ながら僕の予想は否だ。

 

そんなんこと続けても、設計事務所は今後、インターンやオープンデスクの数を減らすだけだろうし、新卒の採用枠の縮小さえ検討するだろう。(だってメリットがないし。)



 

この程度で賃金が上がるくらいなら、とっくに改善されているはずなのだ。

優秀な学生を取りこぼすリスクを考慮してでも、インターン生にまともな給料を払えない何らかの理由があるからこそ、業界全体の給料が低いのである。

 

 

その理由を解消する能力が僕たちにない以上、僕たちは就職に対する戦い方を考え直さなければならない



 

例えば、新卒レベルでまともな給料をもらいたければ、長期的視点で教育コストを回収できる大手ゼネコンや設計事務所に所属するか、学生の人気があまりないが需要の多い業界(営業・構造・環境・設備・施工などであろうか?)のプロフェッショナルとして活躍すること検討したほうがはるかに合理的である。



 

 

 

 

 

 

 

 

では、それでも建築家としてのキャリアを考え、どうしても設計事務所に就業したい場合、僕たちの就職戦略はどのようなものがありえるだろうか?



1.労働市場価値の高い学生になる

まずは正攻法。ここでいう労働市場価値とは、座学の成績がいいとかコンペの受賞歴が多いとか言うことではない。

「自分の作った成果物で金を稼げる」ということである。

 

それも 

  • 語学力を活かし海外の都市計画に関する文献を翻訳し、一定の売上を得た
  • 大学在学中に複数の町おこしイベントを企画・進行し、実績をつくった経験がある
  • 家が工務店で幼少期よりその手伝いを繰り返しており、木造住宅のリノベーション程度の設計・施工であれば即戦力として働ける
  • 独自に作成したWebマーケティング用解析ソフトによって、事務所HPのKPIを達成させるノウハウが有る

 

 

そういう次元である。

今はここまでの能力が要求されていなくとも、いずれこのレベルにまで採用水準が引き上げられるだろう。

 

要するに、雇った直後に収益を出す能力がある学生であれば、給料を払ってもその分をすぐにペイできるので雇う価値が出てくる。

仮にすぐに実力を見せなかったとしても、当面は自分の働きで糊口をしのぐことができるので、長期的に育てようというインセンティブが働く。

加えて、そこに建築設計業務のノウハウを与えれば、既得能力との相乗効果で期待以上の働きを見せるかもしれない。



現に、イラストレーションやエンジニアなど、学生の独学でもプロフェッショナルレベルに到達可能な業種では、このような新入社員なのかフリーランスからの転職なのか判別できない採用が一般化している。

少なくとも、大学の講義と課題を一生懸命やってきただけの学生の立場は、今後更に低くなっていくだろう。



 

 

インターンやオープンデスクで僕たちが搾取されるのは、大学生活数年程度を過ごしただけの実力しかない故に、たとえ雇用しても教育・採用コストをペイできないからだ。

建築学科生に毎月20万を支払うとして、それはその学生を雇わなければ毎月Mac book proを一台新調できること意味する。

あなたの一ヶ月に、新品パソコン一台分の価値があるか否か、冷静に検討してみてほしい。




2.コネ就職

僕たちの人材としての価値は、労働市場における受容と供給で決定する。

この原則から逃れたいならば、市場に参入しない形で雇用を獲得するしか無い。

具体的には、求人票を当てにしないこと。

すなわちコネクションによる就職である。


コネというと、親や大学教授を真っ先にイメージするかもしれないが、それだけがコネではない。

  • 建築事務所の出版した書籍の感想を送り、それをきっかけに事務所見学をお願いする
  • 建築や都市に関するワークショップ・セミナー・勉強会・展示会に積極的に顔を出し、懇親会で顔と名前を覚えてもらう
  • むしろイベントの企画側として、目当ての建築家を大学に招いて講演会を開く

そういう形で社会人や業界人と接触を図り、その延長線で人事権を握る人物とのコネクションを得る方法もある。

ニクリーチなどのサービスやリファラル採用といった新形態の採用も、その一環である。

 

 

大企業への就職の場合、人事決定権が分散しているがゆえに、この戦略は使えない。

だが中小規模の組織であれば、「偶然出会った有望な若者」を演出してお近づきになる戦略は十分有効である。

 

 

 

 

残念ながら、求人票に「美味しい話」は載ってない。

 

リクルートサイト経由で応募してくるのは、こちらから声をかけないと応えてくれない程度の積極性しか無い学生だからだ。

 

 

 

 

 

 

 

3.金を払ってでも実務を学ぶ

実務レベルの技術も経験もない学生が、インターンで時間を提供することさえ惜しむなら、これはもう金を払って雇ってもらうしか無い

 

もちろん労働基準法かなにかでそんなことは認められていないだろうし、現在はこのような採用方法を行う設計事務所はない。

しかし、擬似的にこの関係を作る業態が生まれる可能性は大いにある。



 

 

例えば、とある設計事務所が、「〇〇事務所設計塾」という事業を立ち上げたと考える。

 

そこでは学生は高額の授業料を支払い、その対価として設計実務を本物の設計士と机を並べながら学ぶ事ができる。

授業は単なる座学だけではなく、それこそ新入社員への教育以上に手厚く実践的な指導が行われる。(だってお金をもらってるから)

そして、設計事務所の新入社員には、その入塾者の中から有望な若者を採用するのだ。

 

 

設計料だけでは食べていけない事務所側としては、学生からの安定した授業料収入を確保できる上に、じっくり時間を欠けて新入社員を選別できる。

学生からしても大学以上に本格的かつ実践的な建築業務を、新入社員のように教えてもらえるのだからありがたい。

 

総合資格学院の嘘みたいな授業料を考えれば、善悪は別にしてこうしたビジネスモデルが成立する可能性は大いに考えられる。

(この記事を読んでいる設計事務所の皆様!立ち上げの際には、ぜひ当ブログにお声がけを!教材作成から入塾者募集まで、格安で協力します!)

 




そこまで行かずとも、大学教育と設計事務所の連携は今後加速していくかもしれない。

すなわち、我々が大学に支払う授業料を対価に、設計事務所へのインターンやオープンデスクに参加するという形態とか。

 

形はどうあれ、「学生が金を払ってでも雇ってもらう」形の採用活動も一つの可能性として指摘できるだろう。

 

 

 

結論

無論、無賃でこき使える学生部隊がいないと経営が回らない事務所があるとすれば、それは経営に問題があるので、いずれ破綻する。

インターンの契約で、それが「業務委託」なのか「教育目的」なのかという合意が取れていなければ、トラブルが起こることも必然だろう。

また、今回の記事では小規模設計事務所と建築家志望の学生をイメージして執筆したが、大手ゼネコンから建築士資格から大学教育に至るまで、今の設計業界に問題がないとは口が裂けても言えない。

設計教育に絞ったとしても、解決すべき課題は山積みである。

 

ずいぶん辛い時代に生まれたものである。

 

 

 

 

だが残念ながらこのブログでは、こうした業界全体の問題に対する解決策を語る予定はない。

それだけの考察を行う能力が僕にないのが主な理由だが、そもそもこのブログは建築学科生個人個人のライフハックがテーマであり、建築業界全体に対する提言をしても意味がないからだ。

なぜなら、僕たちが就職活動を迎えるより先にこうした問題が解決する可能性は、極めて低いからである。

 

 

 

 

 

2019年現在、悪夢と呼ばれた就職氷河期は、ひとまず過ぎ去った(らしい)。

その意味で僕たちは恵まれている。

 

しかし「売り手市場」というマスコミの言葉にも惑わされるべきではないのだろう。

地球の気温が上昇したからといって氷河期以前の生態系に戻るとは限らないように、労働食物連鎖も20世紀までのそれとは大きく異なるものに変化しつつあるからだ。

 

 

 

 

 

食物連鎖の頂点を目指すことはゴールではない。

食物連鎖最底辺の生き物でさえ、絶滅していないという点において勝ち組である。

 

本質的な負け組とは、その変化に適応できず、餌としての価値すら獲得できないまま絶滅する集団のことだ。

そして絶滅の原因は、断じて食物連鎖上位の生き物の責任ではなく、その生き物が生態系の変化に適応できなかったからである。

 

 

 

 

 

業界批難をしている暇は、僕たちにはない。

 

 

 

 

 

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