建築学科ごっこ

せめて、建築学科生のふりはしていたいから

エスキスを素早くまとめるために、センスや思考力よりもはるかに大切なこと

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結論から言えば、もっと早い時期から図面模写を始めるべきだったと言うのが正直な感想です。

一日1枚というスローペースであったにも関わらず、一ヶ月という非常に短い期間のトレーニングだったにかかわらず、かなりの成長の手応えがあったからです。

 

 

 

 

「とにかくエスキスが苦手

「アイデアが出てこない」

「仮にアイデアが出てきても、設計としてうまくまとめられない

「時間をかければかけるほど、当初のアイデアから乖離した不格好な設計になる」

と悩んでいた、当時の自分に教えてあげたいのは、

 

シンプルな反復練習に基づく基礎力こそ、君の苦境を改善する唯一最高の武器である、

 

ということです。

 

 

 

 

 

とにかくエスキスに時間がかかって仕方がなかった 

設計課題が間に合わず、締め切り前に徹夜続きになるのって、だいたい以下の3つが原因ですよね。

 

  • 企画:アイデアが浮かばない
  • 設計:アイデアを具体的な形としてまとめられない
  • 表現:形としてまとまった図面を模型・パース・プレボとして纏めるのが遅い

 

僕はこの中でも特に二番目の「設計」が大の苦手です。

(この時点で明らかに建築学科に向いてないですね。でも同じ境遇の人は多いのでは?)

 

建物の大まかな外観・造形を決定するのも苦手でしたし、いざ決定すると今度はその形の中にうまく諸機能を納めることができません

 

 

例えば階段・エレベーター・トイレなどの一般的にコアと呼ばれるような機能。

これらの機能は、利用者動線 バリアフリー、避難経路、設備上の理由などの平面的立体的条件が幾重にも重なっていて、いくつもの要素を同時並行的に検討しなければなりません。

 

何より厄介なのは、こうした機能の配置は無限の選択肢があり、なおかつ唯一の誰もが認める正解というのは存在しないことです。

 

こうした幾つもの条件を満たしつつ、最初に思い浮かんだアイデアを活かす建築の形を考える。

こんな高難易度なパズル、建築を学び始めて数年の学生にまともにできるはず無いじゃないか! と課題の度に感じていました。

 

 

それでもどうにか食らいつき、なんとかアイデアを形にまとめて提出するのですが、その度に消化不良な思いを繰り返していました。

 

 

 

 

 

 

 

ほとんどの建築学科生は反復練習が足りてない

 ところで、皆さん。

将棋ってどのくらいやったことありますか?

 

将棋は対戦ゲームなので、勝つためには強くなるためのトレーニングが欠かせないわけですが、具体的にはどんなトレーニングが必要かご存知でしょうか?

 

 

1つは一局でも多く対戦すること。

これはわかりやすいですね。

 

1つはご存知の方も多いと思います、詰将棋

何手も先の手順を先読みし、終盤において確実に相手の王を「詰む」力を身に着けます。(初段なら5手詰めくらいはできて当たり前らしいです。恐ろしい。)

 

 

 

 

しかし、この2つだけでは序盤から中盤にかけての「王の守り方」「攻める体勢づくり」といった基本的な能力はなかなか身につかないでしょう。

 

なぜなら、将棋の序盤というのは、初心者にとって選択肢がありすぎるからです。

 

将棋というゲームは、開始時に動かせる駒の数は20個、動かし方は30通りあります。

とうぜん相手の動かし方も30通りあるので、この時点でゲームの分岐は30*30=900通り。

 

そして次の自分の番以降、あなたが動かせる手の数は爆発的に増加していき、無限に近い選択肢があなたの前に現れます。

 あまりに膨大すぎて、現代のコンピューター技術を持ってしても、その全手順の解析と比較は実現できないとされています。

 そのため、今日において尚、将棋には絶対唯一の正解となる手は存在していません。

(もしあるならば先攻/後攻が決まった瞬間勝者が決まります。)

ただ、比較的いい手と比較的ダメな手があるだけです。

 

 

 

 

そんな複雑なゲーム序盤においては、個人の能力差やセンスの有無はあまり関係ありません。

 

 

 

大切なのは定石、すなわち過去の棋士たちの研究成果を学ぶことです。

先人たちの既往研究を知悉し模倣するなかで、自分のスタイルや相手の出方に応じた序盤の戦い方をある程度確立させること。

これは、初心者から中級者に至るために、絶対避けて通れない、能力向上の王道です。

 

 

故にすこしでも本気で将棋を学ぶ者は、まずは定石を徹底的に自分のものにするところから始めます。

単に「こういう定石がある。」ということを知るだけでなく、

そのうち方の背景から理屈からその後の方針に至るまで深く理解した上で、

実際に駒を並べて序盤の流れを反復し、体得します。

 

 

 

 

この流れは何も将棋に限ったことではありません。

あらゆる能力や才能の成長にも通じる、努力の定番です。

 

 

数学

  1. 基本問題を繰り返し解き、確実に解ける問題を増やす
  2. 参考書を読み、応用問題への対応力を磨く
  3. 模試や定期試験で実力試し&自己分析で次のステージへ

 

野球

  1. 素振りやキャッチボール、ランニングで基礎能力を向上
  2. フォームの確認や性能のいい道具を使用し、実力を発揮できる状況を作る
  3. 練習試合で経験を積み、明日からの練習に活かす

 

イラスト・漫画

 

  1. 模写やスケッチ、デッサンなどの練習を重ねる
  2. 教本を読み、着彩のコツや人体の構造への理解を深める
  3. 作品を製作・発表し実績を積み、自分なりの表現をさがす

 

料理

 

  1. レシピを参考に、手順通りに料理を作る
  2. 好きな調味料を加えたり、冷蔵庫の残り材料で作ったり、応用させる。
  3. 実際に人に振る舞い、意見をもらう。

 

 

 

どんな業界であれ技能であれ、基本的には

「1.反復練習→2.理論→3.実践」

の繰り返しが成長の基本であり王道です。

 

 

 

 

 

 

 

 

では、建築学科はどうでしょうか?

 

建築学科で言う実践とは、おそらく課題のことでしょう。

詰将棋にあたるのは、読書で身につける建築の知識、あるいはIllustratorなどのソフトを扱う技術にでしょう。

しかし、建築学科の設計教育において、果たして定石の習得に当たるようなカリキュラムが組まれている学校は、果たしてどのくらいあるでしょうか?

 

 

 

 

言うまでもなく、設計力向上のために、課題に熱心に取り組むことや、設計終盤の仕上げ方を学ぶことは極めて重要なことです。

 

しかし、それ以上に脱初心者に必要なのは、

「こうきたらこう打ち返す」

というような、状況に応じた対応のバリエーション、すなわち定石を1つでも多く確保するトレーニングです。

 

 

 

僕が、図面模写をはじめた理由、図面模写を推奨する理由、そしてエスキスが苦手だからといって、あなたが建築学科を諦めるにはまだ早いと断言する理由はここにあります。

 

多くの建築学科のカリキュラムには、この基礎的能力を向上させる反復練習が含まれていません。

 

 

 

 

つまり実在する建築の図面を頭に入れないまま設計課題に挑むということは、

他の業界で例えるなら以下の状況を差すということです。

 

  • 日頃全く勉強せず、テスト本番だけ本気で取り組む学生
    天才、あるいはただのバカ

  • 素振りや走り込みなどの基礎トレをしないスポーツマン
    →自称「俺は試合中に成長
    するタイプだから」

  • 絵はヘタだけれども模写は嫌い。ひたすら何もみず漫画だけ描きまくる。
    小学生の自由帳ですか?

  • レシピ通りに作らない料理初心者
    料理下手の典型例

 

もとよりこの記事に、あなたを軽蔑したり、非難したり、哀れんだりする意図は毛頭ありません。

要するに、あなたのエスキスがうまくいかないのは、定石を学ばないまま(そもそも定石を学ぶという発想すらないまま)将棋の正着を探している現状にあるということです。 

 

 

 

 

もしあなたが、

 

  • 日頃は怠けていてもここぞという時には最大の力を発揮できる天賦の才
  • 主人公補正の星の下に生まれたヒーロー体質
  • あえて困難な制約の中で思考するのが好きなドM体質
  • 建築が好きで好きでたまらず、他人の評価など興味がない建築設計マニア

 

 

このどの条件にも満たないのであれば、あなたの建築学科生活がうまくいかないのは当たり前です。

 

けしてあなたに才能が無いわけでも、あなたが怠けていたわけでもありません。

ただ定石の学び方を知らなかっただけのことです。

 

 

 そして、その学び方の1つが図面模写なのです。

 

 

 

 

 

 

 

具体的な方法 

では、図面模写とは、具体的にどのように行えばよいのでしょうか?

 

 

図面模写のポイントは以下の3つです。

  • エスキスに正解は無いが間違いはある。それを覚えるのが図面模写
  • 平凡だが良質な図面を繰り返し模写することで建築学科生としての基礎力をみにつける
  • 「何も見ないで描ける図面」の積み重ねが、無意識レベルの判断力を磨く

 

 

以下、順番に解説します。

 

 

 

ポイント1:図面模写で、不味い図面への感度を高める

よく

 

  • 「図面模写をするとオリジナリティが失われる気がする」

 

というピントの外れた意見を言う人がいますが、これは

 

  • 「レシピ通りに作ると料理に個性がなくなる」
  •  「定石を学ぶと自分の指し手にならない」

 

と初心者が語るに等しい痛い状況です。

 

 

定石を学ぶメリットの1つは、すでに死路とされている手を検討する時間の無駄を避けるためです。

 

「この手をうつと中盤以降不利になりやすい」

という手を排除し、戦局をコントロールしていくための戦略が定石なのであって、

定石を覚えることと個性やオリジナリティは本質的に別の問題です。

 

 

 

 

話を建築に戻しても同じことです。

 

エスキスという作業に正解はありません。

その課題がどのような条件で、どのような解決を望んでいるのか?

状況が変われば最適解も変わるという点では、将棋も設計も同じです。

 

しかし、だれもが納得する正解は無くとも、だれもが認める間違いはあります。

図面模写の目的は、良しとされる図面を大量に浴びることで、正しい図面からずれたところにある「不自然な図面」を検出する能力を高めることです。

 

 

物事のよしあしは必ずしも言語化できるとは限らず、大抵の場合人はなぜそれがいいと思ったのか、なぜそれはだめだと思ったのか、といったことを言葉にすることができません。

いいかえれば、言葉や論理だけでは、いいものや正しいものを作ることはできないのです。

 

 

正当な図面をインストールすることで、「なんとなく図面がおかしい」という非言語的な感覚を身につけることが、図面模写の目標です。

 

 

ポイント2:シンプルな図面を何度も何度も模写しまくる

では、具体的にどのような図面をどのように模写するのが効果的なのでしょうか?

 

 

もちろんどんな図面をなんか模写してもいいのですが、個人的に実力がついたと感じたのは、昔の一級建築士の製図試験のような、シンプルでひねりも衒いもないストレートな設計図面を何度も模写することでした。

 

もちろん、それまで図面模写をしたことは何度もあります。

設計課題が与えられる前の一回生の頃も、吉村順三の「軽井沢の山荘」の図面模写が課されたこともあります。

(これはどこの学校もやってる定番の課題のようですね)

 

しかし、この模写は一ヶ月描けてA1ケント紙いっぱいに模写するという1回限りの課題でした。

 

 

 

ここで言う図面模写とは、それと少しだけ目的が違います。

  

筆者の言う図面模写トレーニングの具体的な方法は以下の3つです

 

  • 模写する図面は平凡で独創性やオリジナリティは無いが、建築として破綻や無理のない模範解答的な図面(一級・二級建築士の製図試験模範解答など)
  • その図面を目で見て別の紙に模写する(≠薄い紙を重ねてなぞる「トレス」とは別)
  • 道具は「鉛筆(シャーペン)」「前述の図面」「A4サイズの方眼紙」のみ。(インキング用のペン・定規・消しゴム・大きなケント紙・仕上げ用のコピックや色鉛筆は不要)

 

 

そして大切なのは同じ図面を繰り返し繰り返し模写する事、そしてそれを通じて何も見なくてもスラスラ書ける図面のストックを増やす事、この2点です。

(基本、日を開けて3回同じ図面を模写すれば、よほど複雑な図面でなければ覚えられます。)

 

 

建築学科に入ってから量より質を重視した、あるいは発想力や構想力を試すような課題が与えられ続けます。

そのアンチテーゼとも言えるこのトレーニング。

 

だからこそ以下のような工夫は本記事の趣旨からは外れます。

  • 人の図面を模倣・暗記するとオリジナリティが死ぬので、毎回毎回自分なりのアレンジを加える
  • きちんとした図面を各能力を着けるため、真っ白な紙に一から下書きし、ペン入れ・着彩も施す
  • 同じ図面を繰り返すとあきるので、毎回違う図面を模写する

こうしたアレンジはけして悪いとは言いませんが、従来の設計実習で重視されてきた側面を軽くなぞるだけになってしまうでしょう。

 

本記事で取り上げているのは、従来の設計演習では実力を発揮できなかった学生が、これまでの方法論に固執すること無く新しい自分を開拓するためのトレーニングです。

 

だからこそ、質より量、オリジナリティではなく安定感と基礎力の向上という、従来の建築学科では軽視されてきた能力に力を注ぐべきなのです。

 

 

 

 

 

ポイントその3:「何も見ないで描ける図面」の積み重ねが、無意識レベルの設計センスを磨く

ではなぜ模倣とスピード重視の反復練習が重要なのでしょうか?

それは一口で言うならば無意識レベルの意思決定の精度を向上させるためです。

 

 

同時に複数のことを考える時、あなたの思考力は分散されます。

そして記事冒頭でもお話したとおり、エスキスというのは意匠・計画・構造・設備など同時にいくつもの要素を検討する作業でもあります。 

 

もちろん人間は真の意味で同時に複数のことを思考することはできません。

なので、

「計画的な要素を中心に検討しつつ、意匠や構造や設備面も頭の隅で考えている

と表現したほうが正確でしょう。

 

 

換言すれば、エスキスというのは膨大な設計選択肢の中からより筋の悪い選択肢を切り捨てていく行為であることはすでに述べたとおりですが、この膨大な選択肢の大半はなんとなくよくないという直感に基づいて、切り捨てられています。

設計作業というのは、本人がどれほど論理・意識的に取り組んでいるつもりでも、その大半の意思決定は無意識レベル行われているということです。

 

 

 

 

 

 

 

そして基礎トレーニングとは、意思決定能力の下限、あなたの無意識レベルのパフォーマンスを底上げする効果があります。

 

 

 

時間を掛けた質の高い思考訓練が思考力の上限値を引き上げるトレーニングだとすれば

スピードを重視しお手本を繰り返し模倣するタイプのトレーニングは思考の下限値を底上げするトレーニングだといえるでしょう。

 

 

 

 

これが、僕が建築学科生に反復練習が必要だと考える理由です。

 

 

 

  • 設計課題が出された直後に真っ先に思い浮かぶ設計案の質
  • 体力も気力もボロボロの状態で描いた図面の質
  • 限られた時間でアイデアを出し合うワークショップ中に提案する直感的なアイデアの質
  • いくつもの要素を並行的に考える複雑なプランの決定

 

 

こういった、直感や反射、あるいは閃きといった言葉に代表される無意識レベルの意思決定は、これまでの人生経験や趣味嗜好、そして反復練習で培った「慣れ」によって左右されています。

いいかえれば、反復練習を積み重ねることで、これまでセンスや才能だと思っていた領域すら開拓できる可能性が見えてくるのです。

 

 

一ヶ月間図面を模写してみれば……

個人的に模写するオススメは、一級・二級建築士の製図試験模範解答、あるいはそれに準じる設計問題とその解答です。

基本的には二級建築士は二世帯住宅や店舗併設住宅などの住宅系建築、一級建築士は図書館や美術館などの中規模公共建築や商業建築が出題されています。

 

建築技術教育普及センターのホームページでは、過去三年分の過去問とその解答例が公開されています。

一級建築士試験 試験問題等 建築技術教育普及センターホームページ

二級建築士試験 試験問題等 建築技術教育普及センターホームページ

 

ただ、近年の建築士試験の製図問題は難化傾向にあるうえ、解答例に解説がないため初心者には不向きかもせれません。

 

そのため、過去の製図試験のデータと模範解答、或は本番を想定した練習問題を掲載している本やサイトを活用するのがベターかもしれません。

製図練習課題/1級建築士製図対策室

二級建築士「設計製図の試験」練習課題

 

1級建築士 過去問題集チャレンジ7 平成29年度版

  

2級建築士 過去問題集チャレンジ7 平成29年度版

 

 

世の中、悩んで答えを出すべき問題もあれば、調べたり暗記したりして解決すべき問題もあります。

また、時間をかけて悩めば悩むほど質の良いアイデアが出るかといえば、必ずしもそうではありません(むしろ全く逆のことのほうが多いですよね)

 

 

にも関わらず、建築学科生には「とにかく時間をかけて悩みまくる」という武器しか与えられていないのが現状です。

同じ努力にしても、闇雲に努力するだけでなく、時には努力の質を変えてみることもわせれないようにしたいものです。

 

 

図面模写

 

このシンプルなトレーニングこそ、すべての建築学科生が見直すべき最良のトレーニング方法だと考えています。

もっとセンスが良くなりたい、いつもエスキスに時間がかかっている、全力でいろんな課題に取り組みたい、そう考えている方に推したいトレーニング方法の話でした。

 

 

 

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