建築学科ごっこ

せめて、建築学科生のふりはしていたいから

建築学科生だけが「建築学科は忙しい」と信じ込んでいる

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徹夜が当たり前とされる建築学科の世界ですが、生産性を向上させスケジュール管理を徹底し作業環境の改善を図ろうと考える学生は少数派です。

 

課題提出直前に密集した作業量をいかに課題期間全体に分散させるかという当然のライフハックに腐心している学生は、建築学科では優秀な学生でもあまり見かけません。

 

むしろ提出間際の睡眠時間の多寡を互いに報告しあうという実に惨めな現状を、当人たちだけでなく教授陣も業界人も暗黙のうちに認めているのが建築教育の現場なのです。

 

なぜ他の学科に比べ建築学科が忙しいという迷信がこれほど当然の如くまかり通っているのでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

建築学科が他の学科に比べて課題量が比較的多いというのが持ちだされる代表的理由です。

しかし、この原因分析は実はピントの合っていない的はずれな考え方なのです。

 

 

というのも、建築学科生のいう「忙しい」とは、単に提出期限直前のことだけを指しています。

よくよく大学内を見回してみると、平生はむしろ実験レポートや現場実習に追われる理系の他課程の学生ほうが、よほど忙しそうに駆けまわっている事に気が付きます。

毎週のように実験レポートに追われる理系大学生の中で、建築学科の忙しさは締め切り前の1週間に極端に集中しています。

提出期限が近づくに連れて加速度的に忙しくなっていく建築学科の現状。

世間一般ではこれを「建築学科生は課題量が多く忙しい」ではなく「建築学科生はスケジュール管理能力が夏休みの小学生並み」と表現します。

 

 

むろん、建築学科が他の学科に比べ暇で楽してるとまでは主張しません。

が、少なくとも建築学科だけ極端に課されるノルマが多いと考えるのは他の学科に対して失礼なのでは無いでしょうか?

建築学科は忙しいのではなく、単にタイムマネージメントが下手なのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ではなぜ他の学科に比べ建築学科ではこれほど学生の時間管理が機能しないのでしょうか?

 

 

 

 

 

建築学科を受験する生徒が他学科に比べ時間管理能力に乏しい人が集まりやすいはずはありません

 

一人二人ならいざしらず、大多数の建築学科学生がこの有様である以上、この不条理は建築学科の風土病であるとしか考えられません。

 

建築学科にはスケジュールを破綻させる、建築学科は忙しいと錯覚させる何かしらの原因があるはずなのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず代表的な意見として、「建築学科の課題は数学や理科のテストと違って完成がないから」という反論をよく耳にします。

しかし残念ながら、多くの学生が徹夜している理由はより完成度の高い設計を目指しているからではなく、締め切り直前にも関わらず最低限度の提出物すら揃っていないからである以上答えとしては不十分です。

 

私たちは、課題の期間が長いという甘美な嘘にしがみつき、建築学科に根を張る本当に重大な隠れた問題に目を向けていないことを自覚しなければなりません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1つの課題が1ヶ月を越える長期的なスパンで出題されるからというのも、建築学科生が主張する理由の1つです。

しかしこれもまた真の理由から目を背けるために建築学科生が持ち出す空虚な言い訳に過ぎません。

 

たしかに、長期のプロジェクトほどスケジュール管理が難しいのは事実です。

ロングスパンの課題では、その前半において「まだ時間があるから大丈夫」と油断してしまいがちです。

一見すると、この油断が、建築学科生の忙しさ・破綻したスケジュールの原因のような気がします。

 

 

 

しかしよくよく考えてみると、長期スパンの課題の前半で学生たちがサボっているのかというと、必ずしもそうとは限らないことに気がつきます。

 

建築学科生は課題の提出が終わる度に次こそはキチンと間に合わせよう。徹夜もしないようにしよう。そのために次の課題はもっと早い段階から動き出そう」と固く心に誓います。

いつまでにどの作業を終わらせるかという計画を立てることも多く、客観的にも無理のない物が大半です。

そしてこの決意に嘘偽りは一つもなく、建築学科生は次の課題が提出されるや否や、迅速に課題に取り組むのです。

 

しかし、その努力が実を結ぶことは経験上極めてまれなことではないでしょうか?

 

 

締め切り直前になると、どういうわけかスタートダッシュの速さを全く活かせないまま、前回と同じように図面と模型に鞭打たれる夜を過ごすことになることになるのです。

 

 

課題の初期から早めのスタートダッシュを切ったにも関わらず、いつの間にか図面も模型もはかどらないまま、ただ時間だけが過ぎ、気づけば提出直前というお決まりの流れを、みんなが繰り返していることは、どう説明すればいいのでしょうか?

 

 与えられた課題期間が長期に渡ることは、スケジュール破綻の要因の1つです。

しかしその原因を「まだ時間があるという油断」のせいと思考停止するのではなく、もう一歩踏み込んだ洞察をしなければ状況は改善しないでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、情報が集まりきらなければアイデアは出てこず、アイデアが生まれなければ設計段階に進めないという滑稽な思い込みが、建築学科の惨劇に拍車をかけます。

 

 

建築学科にいると、エスキス作業が想定外に長期化することが、建築学科のスケジュール管理を機能させないとする主張をよく耳にします。

 

  • 「とりあえず情報を一通り集めてからじゃないと動けないよね」
  •  「いまはアイデアが降りてくるのを待っているから」
  • 「アイデアがなかなか出なかったから、模型を作る時間が確保できなかったよ」

 

たしかに、いくら良いアイデアを求めて念じた所で、念力だけでは降りてくるアイデアの出来栄えを左右することは出来ません。

 

そのため、

「アイデアがなかなか出ない」

→「作業が後ろ倒しになる」

→「提出直前に徹夜」

というドミノだおしが発生するという言い訳の元に、彼らは自分の課題の遅れを正当化しています。

 

 

この主張には一種の正当性もあります。

アイデアというのは、出るときは出るし出ないときは出ません。

だからこそ教授たちも、「アイデアが出ず、エスキスに間に合いませんでした」というあなたの主張を大目に見てくれていたのです。

 

 

 

 

 

そう、もし本当にエスキス・情報収集・アイデア探しといった行為が課題中に不可避であるならば、アイデア出しという不安定な工程を保有しているが故に建築学科は忙しいという主張は成り立つでしょう。

 

 

 

ですが、エスキス・情報収集・アイデア探しという不安定な工程は、本当に課題期間中に避けることができないのでしょうか?

実際には、自分は何一つ生み出していないにも関わらず、設計の進捗は何一つ進んでいないにも関わらず、あたかも課題を進めているかのような感覚だけ抱えたまま、時間だけが過ぎていくこの危険な期間を課題期間中回避できる手段は本当に無いのでしょうか?

 

 

もし、設計課題の出題から提出までの間、情報収集やアイデア探しを削減・軽減する方法があるとすれば、建築学科は忙しいという考えは欺瞞以外の何物でも無いということになります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして結論を述べましょう。

「情報収集やアイデア探しを課題期間中にしなければならない」というのは建築学科生だけがもっている単なる思い込みなのです。

 

課題が始まってからアイデアを出そうとしているその習慣が、課題の進行を遅らせ、設計作業が後回しになり、最終日の徹夜を余儀なくさせる、忙しさ幻想の根本的な原因なのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

徹夜の多い建築学科生は、課題というものを「制限時間内に自分の思考やアイデアを生み出し形にする試練」のイメージで捉えています。

しかし、優秀な学生にとっての課題とは「日々生みだした思考やアイデアを形にする発表の場の一つ」なのです。

 

 

例えば料理学校に通う学生達による料理コンテストが開かれたとして、その勝敗を分かつのはコンテスト中にどれくらい努力したかの差ではなく、日々どれくらい料理で試行錯誤してきたかの差に現れるのは自明でしょう。

 

もし、料理コンテスト中に一からレシピを見ている学生がいたとしたら誰しも彼を笑うことでしょう。

しかし、建築学科の課題について限ってみると、この愚かな料理人と指して変わらない振る舞いが一般的な学習スタイルとしてまかり通っていることに気が付きます。

 

 

 

造形美と新規性に溢れ、社会的側面から見ても思慮の深い設計を、繊細かつ力強い図面と模型によって表現する建築学科生。

彼らに共通しているのは、課題と完全に独立した日常的な鍛錬とトレーニングの存在です。

 

 

彼らは日常において常にアンテナをはり、建築という枠を超えて情報や教養を吸収しているのです。

彼らは毎日の習慣として社会に潜む課題とその解決策に思考を巡らせているのです。

彼らは常日頃様々な図面を観察し、時にトレース・模写を通じて線の意味を探っているのです。

彼らは普段からより美しくパワフルに意図を伝えられる模型を、より素早く作るトレーニングに余念がありません。

 

 課題が始まってからようやく関連書籍を買い集めているような私とは、スタート時点で勝負がついていたのです。*1

 

 

つまり、課題のための情報収集・アイデア構想という考え方がそもそも間違っていたのです。

 

 

 

 

 

 

 

この記事を読むあなたがとるべき行動は、課題を中心とした設計スタイルから独学・自主制作を中心とした設計スタイルへの転換です。

 

日常から社会と建築のあり方を多面的に捉え、脳から血が出るほどの思考実験を繰り返していれば、課題に対してあなたが行うべきは課題の解釈と、図面・模型・プレゼンボード作成という作業だけになるのです。

その作業ですら、日々の研鑽を厭わなければさらにいくらでも高速化出来るはずです。

これらは何も特別な才能や能力を必要とすることではありません。

 

 

 

なぜ建築学科生が忙しいとされるのか?

その答えは建築学科の課題量が多いからでも、課題期間が長いからでも、まして建築学科の学生だけがタイムマネジメント力に欠けているからでもありません。

 

 

 

 

課題が出題されてから動き始める課題中心の思考こそ、建築学科に潜む最大の病理なのです。

 

 

 

課題とはあくまであなたのこれまでの学習の成果を発表する場にすぎません。

常に自分の引き出しを増やす努力を惜しまないものに建築学科の女神は微笑むのです。

 

 

 

あなたの日常が実習課題中心に回る生活である限り、あなたの学習は永久的に実習課題ありきのままです。

課題を中心とした学習計画が、かえって課題の進行を遅らせているという皮肉な状況に、一刻も早く別れを告げるべきなのです。

 

 

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*1:無論こうした大学生が大半を占めるようになれば、今以上に「建築学科は忙し」くなるでしょう。しかし、本来は忙しくないはずのものを思い込みで「忙しくしている」現状が、徹夜のない健全な忙しさに変わる事は寧ろ推奨されるべきでしょう。